仕事で必要な英語を身につけるには
やり方次第で英語を学ぶ労力は圧倒的に少なくできます。
このエントリーでは、私の英語に費やした数万時間と十数年の医薬品業界での経験から、目的別に何を捨てるべきかという情報をマインドセットと一緒にまとめました。
80:20の法則であるパレートの法則は英語を身につける場合にも当てはまり、最も重要な8割を身につけるために必要な時間は全体の2割です。
まず英語を学ぶ目的を明確にし、その目的を達成するための手段を的確に選択することで文字通り英語を学ぶ労力の8割をカットすることができます。
英語を学ぶ目的と3つの想定レベル
英語を学ぶ上で一番重要なのは目的である。
ほとんどの人は手段としての英語を学ぶ訳であり、なぜ英語を学ぶのかということをハッキリさせて求める到達レベル=ゴールを決めてから英語の勉強に取り掛かるべきである(英語の勉強を純粋に楽しめる趣味として位置付ける場合はこの限りではない)。
例えば、①英語を使って最低限仕事ができれば良いのか、②英語を武器として英語以外の専門での仕事がしたいのか、③それとも英語のプロとして通訳者・翻訳者などを目指しているのかということである。
現状平均的な大学レベルの英語力(TOEIC600点程度)と仮定して、①であれば、100時間くらいで最低限の発信用フレーズのマスターと受信用のリーディング・リスニングの習熟が基本方針になる。
②であれば、1,000時間くらい使って、最低限の発信用フレーズのマスター、発音の矯正及び受信用のリーディング・リスニングのより高度な鍛錬が必要になる。
③であれば、10,000時間以上使うことを前提に、幅広い発信用フレーズマスター及び発音の矯正、並びに専門英語以外も含めた幅広いリーディング・リスニングの理解力を伸ばす高度かつ包括的な鍛錬が必要になる。
あなたは、自分がどのレベルを目指して勉強しているか即座に答えられるだろうか?
なんとなく、できるだけ上達できたら良いと思いながら、目的を決めずに勉強してはいないだろうか。
到達目標がハッキリしている前提で、下記の3つの目標別のより詳細な攻略法である目的別勉強基本方針を別エントリーで示した:①最低限仕事で必要な英語をマスター、②英語以外の専門で英語を武器とする、③英語のプロとして通訳者・翻訳者などを目指す。
このサイトを読んでいる人の中には英語が好きではないが、仕事で必要なので最低限の努力でマスターしたいと考えている人も多いはずだ。
捨てても良い項目
例えば、「英語を使って最低限仕事ができれば良い」という目標を設定したとすると、完璧主義に陥らずに足し算ではなく引き算の発想で英語を身に着けることが大切になってくる。
省エネで製薬英語を身に着けるためには、捨てても結果に影響しないものを捨てることが大切である。
このサイトでは以下のものを捨てることを提案する。英語は骨子の8割が正しければ通じる。
以下の項目は残りの2割であるが、完全に身につけようとすると全体の8割の学習時間を費やすことになる項目である。
①「a」や「the」などの冠詞、②「on」や「at」などの前置詞の正確性、③過去完了などの時制、④1つのことを表現するのに複数の言い方を用いる表現力、⑤三単現のs、⑥単数形・複数形の区別、⑦書き言葉と話し言葉の区別、⑧日常会話、⑨ネイティブのような発音
「a」や「the」などの冠詞
①はノンネイティブにとっては非常に難しいが、コミュニケーションに及ぼす影響はほとんどない項目であり、英語のプロを目指すのでなければ、深く学ぶのは時間の無駄である。
私の経験では、ネイティブと認められる水準以上の日本語を操る人で①を完璧に使いこなしている人に会ったことがない。
「on」や「at」などの前置詞の正確性
②は①に比べるとノンネイティブにとっても理解しやすいが、常に正確に使用しようとするとかなりの熟練を要する。
一方、多少間違えてもコミュニケーションに及ぼす影響は小さい。
これも英語のプロを目指すのでなければ、深く学ぶのは費用対効果が悪い。
過去完了などの時制
③は主に過去完了、現在完了のことを言っている。
「It has been reported.」と「It is reported.」は多少含みに違いがあるが、ほとんどの場合コミュニケーションへの影響はあまりない。
1つのことを表現するのに複数の言い方を用いる表現力
④は同じ表現を繰り返すと英語では教養がないと取られるので、一般的には同じことを言う場合でも異なる単語、フレーズを使って表現することが好まれる。
ただ、製薬英語で扱う科学的、薬事的な文脈では、同じ意味の用語・フレーズは繰り返し用いても構わない。
下手に別の表現を用いると別の意図があると思われて紛らわしい。
そのため、英語で発信するために、ある程度頻出表現を覚え、それ以外は見てわかるようにしておけば良い。
三単現のs
⑤三単現のsは概念的には難しいものではないが、常に正確に使用しようとすると熟練を要する。
一方で、コミュニケーションへの影響は小さい。「He asks」を「He ask」と表現してしまっても気にする必要はない。
単数形・複数形の区別
⑥英語の文法の中で①と同様にノンネイティブにとって難解なのが、可算名詞、不可算名詞の使い分けである。
間違えてもコミュニケーションへの影響はほとんどないので、明らかに複数形・単数形が分かるもの以外は無視しても良い。
英語のプロを目指すのでなければ、学習に時間を割くのはあまり効率が良くない投資である。
こちらも私の経験では、ネイティブと認められる水準以上の日本語を操る人で完璧に使いこなしている人に会ったことがない。
書き言葉と話し言葉の区別
⑦日本語では書き言葉と話し言葉は厳密に区別される。
英語でもある程度書き言葉と話し言葉は異なる。
ただ、製薬英語のような科学的・薬事的文章やディスカッションでは常にフォーマルな書き言葉を用いて話すことで問題は生じない。
いわゆるカジュアルなネイティブ英語のフレーズブックに記載されているようなフレーズを使いこなす必要はない。
ただ、会話では完全な文章でなくても意味を伝えることが可能であるので、常に書き言葉のようにフルセンテンスで話す必要はない。
この点は、追加の労力がかからないので適宜活用する。
日常会話
⑧日常会話は一見簡単そうで一番難しい。
仕事で最低限必要な英語では、書き言葉主体で日常会話に用いるには大仰な表現を用いて口頭及び書面の発信英語でのコミュニケーションに対応することで意思疎通は十分できる。し
たがって、テレカンでの無駄話や懇親会でのトピックが読めない日常会話は捨てる。これで大幅に労力が削減できる。
ネイティブのような発音
⑨ネイティブのような発音は最低限英語で仕事をすることが目標であれば捨てる方向で良いと考える。
理由は多少発音が下手でもハッキリ大きな声で話せば、構文と専門用語、そしてキーメッセージがクリアである限りにおいてコミュニケーションに問題は生じないからである。
ただ、英語を武器にしたい、又は口頭で発言を求められる英語のプロを目指すのであれば時間を投資する価値はある。発音については、また別のエントリーで書く予定である。
具体的にどのように上記の項目を捨てていくかという点については、今後必修フレーズの中で紹介していく。
また、業務上必要な英語の要件に応じて、英文読解重視、日英翻訳重視、英語プレゼン重視のように投入する労力に濃淡をつけることも重要である。
引き算の省エネ発想で必要な努力をすれば、100時間もあればTOEIC600点レベルから、仕事で英語に困らないレベルまで引き上げることができるはずである。
英語を学ぶマインドセット
目的を決めたら捨てるべき項目が決まります。
これだけでもかなり効率良く英語を学ぶことができますが、身につける英語スキル別に意識しておくと上達が早くなります。
ここでは私の数万時間の英語に費やした経験をもとに、情報を発信していく際に必要になる英語能力と情報を受け取る際に必要になる英語能力について、スキルを磨く上で身につけておきたいマインドセットを示しました。
発信英語は限定されたフレーズをまずマスター
恐らく苦手意識を感じている人が多いのが会話でのスピーキングをはじめとする発信型の英語スキルだと思う。
一般英語のジャンルで書店に行けば腐るほどフレーズ集を見つけることができる。ただ、発信型のスキルに関しては自分のペースで行うことができるので、必要なフレーズを限定するという引き算の発想をもってアプローチすれば、驚くほど省エネでマスターすることができる。実際、私が普段専門的な文脈で使用するフレーズも調べてみたところかなり限定されていることが分かった。
具体的なフレーズに関してはおいおい共有していく。
発信英語の構成要素とそれぞれの重要度
製薬英語の文単位の構成要素は以下のように4つである:①専門用語、②構文、③詳細な文法、④発音。
この構成要素のうち特に重要なのは、①専門用語と②の構文である。
このどちらかが間違っていたら、致命的に通じないか誤解が生じる。
③の詳細な文法は捨てても良い部分である。
④の発音に関しては、上記①、②がしっかりしていれば、相当ひどくない限りは通じる。
上に、文単位と書いたが、これがパラグラフやプレゼンになってくると最も重要な要素として、全体で何を伝えたいのかという⑤キーメッセージが重要になってくる。
以上①~⑤の構成要素メール、会話、プレゼンの実際の状況にどのように反映していくかについては、別のエントリーで触れていく。
ある程度地道な努力が求められる受信英語
受信英語の肝はコミュニケーションをとるために、相手の言わんとしていることを理解するということである。
日本人が学校教育で慣れているリーディングやリスニングの範疇なので、ある意味敷居は低いのであるが、実質的には最も習熟を要するカテゴリーである。
発信英語のマインドセットで書いたことと表裏一体であるが、受信英語は相手のペースで発信されそれを受けるという性質上、仕方のない部分もある。
受信英語具体的なアプローチ
受信英語のアプローチは以下の4段階である:①内容への習熟、②使われる専門用語・表現への習熟、③専門用語・表現の発音のされ方への習熟、④全体として発信者が何を言いたいのかをくみ取る。
まず、①は英語の攻略法なのに逆説的であるが、日本語で良く知っている分野は(あまりわからない)英語で話されていても、大体何を言っているのか推測しやすいというのがある。
②はその専門分野(薬事、臨床医学、非臨床、薬物動態、CMC、統計等)それぞれの分野で特有の用語・言い回しがあり、それに習熟していれば、リーディングはもちろん、リスニングの際の理解度は大きく違ってくる。
③はリスニング特有の問題であるが、実際にその用語・表現がどのような音として発信されるのかを身体で覚えていく。
④は、発信英語のマインドセットのところに書いた、「キーメッセージ」と表裏一体であるが、発信する以上何か伝えたい事のエッセンスがあるはずであり、それを全体として把握することができれば、詳細部分は理解できなくても大きな問題なく、対応することができる。
実際に①~④に習熟していくためには、日々の練習が必要となるが、丁度良い教材等具体的なやり方についてはおいおい触れていく。
より具体的な指針
以上を踏まえて、到達目標がハッキリしている前提で、下記の3つの目標別のより詳細な攻略法である目的別勉強基本方針を別エントリーで示した:①最低限仕事で必要な英語をマスター、②英語以外の専門で英語を武器とする、③英語のプロとして通訳者・翻訳者などを目指す。