英語表現リスクマネジメント1(強制・要件と意図しない結果の区別)

英語表現リスクマネジメントについて

このシリーズでは少しガチガチの医薬品英語から離れて、日本語と英語のコミュニケーションエラーを最小化するためのコツを共有していこうと思う。

私は自己紹介のところではさんざん偉そうなことを書いたが、今でも英語ネイティブと話すときに誤解が生じて、追加の説明をすることがある(もっとも日本語でも理解のズレは日常茶飯事であるが)

このシリーズでは日常の誤解に繋がった出来事を採り上げて、その背景と何が原因で誤解に繋がったのか、そしてどのようにすれば誤解のリスクを少なくすることができるかを紹介する。

なお、タイトルの英語表現リスクマネジメントは英語表現とリスクマネジメントを合わせて作った造語である。リスクマネジメントの概念を英語コミュニケーションエラー最小化のために適用したらどうなるかがもう一つのテーマである。

リスクマネジメントは医薬品の世界では医薬品リスク管理計画risk management plan(RMP)として適用される。

開発段階から市販後まで一貫して医薬品のリスク・ベネフィットを評価し、リスク軽減の方法を1つの文書に記載して医療従事者に共有することで、市販後安全性を充実させる手法である。

日本では2013年の4月から導入されており、新医薬品、後発医薬品、バイオ後続品にRMPが必要であり、承認後はRMPの策定と実施が承認条件とされ義務付けられている。

今回のフレーズ

今回重要な特定されたリスクとして取り上げるのは、次のフレーズである。

Everyone has to throw up on the ship.

背景

私は冬の北海道へ行く計画を立て、その内容を妻に共有していた。

飛行機も良いが、フェリーでのゆったりとした旅も捨てがたい。

ただ、冬の日本海は時化の日が多く、大型船でも結構な揺れを覚悟しなければならないという情報をつかんでいた。

このとき私の脳裏に浮かんだのが、カニ漁船の乗船員と水産高校の実習にまつわる噂である。

その噂とは、数ヵ月にわたる乗船生活なので屈強で今まで吐いたことはおろか船酔いしたことのない男でも、必ず吐く経験をするというものである。

私はその噂を共有するために取り上げたフレーズ:

Everyone has to throw up on the ship.

を「みんな必ず吐いてしまう」という意味で用いたのである。

これを聞いた妻は!?という反応で、

Is there a drill sergeant on the ship?

と聞いてきた。

どうやら妻の頭の中には鬼軍曹のような上司がいて全員が吐くまで仕事をさせるようなイメージができていたようであった。

安全性検討事項

have to、must、requireのような表現はどれも日本語で何々しなければならないというような意味になるが、これらを用いて「みんな吐いてしまう」と言おうとすると文法的には正しいが「それが要件である」かのような響きになってしまう。

つまり、意図せずに結果として吐いてしまうことと誰かに強制的に吐かされることは厳密に区別しなければならない。

このことで深刻なコミュニケーションエラーを起こしてしまう可能性がある。

したがって、have to、must、requireで表されるような「○○しなければならない」という言い回しを「重要な特定されたリスク」とする。

安全性監視計画・リスク最小化計画

ではどうすれば、このような誤解を避けることができるだろうか。先ほどの安全性検討を基にすると、意図しない結果と強制的に生み出された結果を区別することを意識することで対処できそうである。

誤解の可能性と重大性から、笑い話で済むかもしれないが、コミュニケーションの効率が落ちるのは確実なので、通常の安全監視計画及びリスク最小化計画に加え、追加の措置が必要である。

では具体的にどうするか?

意図しない結果を表現するためには、end up xxxingを使うと良い。

先ほどの例でいうと

Everyone ends up throwing up.

とすれば自然に「みんな(吐きたくなかったけど)吐いてしまった」というニュアンスがでる。

これが通常のリスク最小化計画であり、状況に即した表現を使うということである。

通常の安全性監視計画は、英語を書いたり話したりする際に、意図しない結果か強制的な結果かを区別することを意識することである。

追加の安全性監視計画は、定期的に、意図しない結果と強制的に生み出された結果の表現を自分にリマインドすることである。

また、追加のリスク最小化計画は、ちゃんと誤解が生じていないかどうか相手にフィードバックをもらうことである。

これらのリスク管理計画を策定・実施することで、コミュニケーションエラーは確実に減少するだろう。

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