1回1文!目と耳から服用するくすりの英語#28
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https://www.mag2.com/m/0001684701.html#detailbox
■例文:
中医協・薬価専門部会は、有効成分や製造法が先発品と同一であるバイオセイムの薬価算定を暫定的にバイオシミラー(バイオ後続品)と同様、0.7掛けとすることを了承した。
■音声:
■語彙:
中医協:Chuikyo
正式には中央社会保険医療協議会である。薬価関係の議論をする厚労大臣の諮問機関。英語では Central Social Insurance and Medical Councilsであるが、この用語を使ったところで長くなり分かりにくいのでシンプルにChuikyoとして良い。
薬価専門部会:Special Committee on Drug Prices
薬価関係の議論をする部会。他には費用対効果専門部会や保険医療材料専門部会等がある。
費用対効果については下記のエントリーを参照
有効成分:active ingredient
製造方法:manufacturing method
先発品:brand product(s)又はbrand drug(s)
バイオセイム:authorized biosimilar product(s)又はauthorized biosimilar drug(s)
「バイオセイム」という用語を名詞で製品カテゴリーとして用いるのは英語では、あまり一般的でないようである。
biosame or biodifferentのように同一性の議論との誤解を避けるために、オーソライズドジェネリックのバイオシミラー版という表現を用いた。
オーソライズドジェネリックは有効成分だけでなく添加剤等も含めて製造法が同じジェネリック。ブランド品の製造販売業者や別の会社が権利を得て製造販売する。
バイオシミラー(バイオ後続品):biosimilar product(s)又はbiosimilar(s)
■重要表現・解説:
同一の[名詞]:with the same [名詞]
薬価算定:price to be [数字]at the initial NHI price listing
薬価算定は、医薬品が承認された後に価格が決定され公的な医薬品価格表である薬価基準に収載されることを意味する。薬価基準に収載されることで日本の国民皆保険の保険償還の対象となる。薬価基準はNHI(national health insurance)price listing。
暫定的に:tentatively
0.7掛け:70% of
先発品の価格の0.7掛けという意味。
■訳:
The Special Committee on Drug Prices at Chuikyo tentatively agreed that the drug price for authorized biosimilar products, with the same active ingredient and manufacturing method, to be 70% of the brand product at the initial NHI price listing, which is very similar to regular biosimilar products.
■省エネフレーズ:
Chuikyo agreed that drug price for authorized biosimilar to be 70% of brand product at initial price listing, similar to regular biosimilar.
このフレーズを実際に自分で活用する際は、冠詞、完了形、3単現のs及び複数形を省略したり、前置詞のミスは無視しても十分通じる。
今回は、冠詞を削除し、複数形を単数形とした。また意味がそれほど変わらないので「Special Committee on Drug Prices at」、「tentatively」、「product」、「, with same active ingredient and manufacturing method,」、「NHI」及び「which is very」を削除した。
省エネフレーズに関しての詳細は、製薬英語マスターの労力を8割減らすための3つのポイント(保存版)を参照されたい。
■編集後記
今回は、バイオシミラーと薬価を採り上げました。
なお、今回は少し趣を変えて、日本語ニュースを英語でどのように表現するかという発信英語に重点を置いた内容になっています。
例文は今週の中医協のニュースからです。
バイオセイムの薬価は暫定的にブランド品の70%というのが主旨です。
このニュースを見た時に『「バイオセイム」って何だろう「バイオシミラー」ならわかるけど』と思った人は多いのではないかと思います。
また、もう少し事情に詳しい人なら「バイオシミラーの薬価はブランド品の70%なのは今に始まったことではないのでは」と思ったかもしれません。
背景事情は以下の通りです。
昨年8月、腎性貧血に適応を持つ高分子製剤「ネスプ」のオーソライズドバイオシミラー「ダルベポエチンアルファ注シリンジ」が承認されました。
普通のバイオシミラーではなく、先発品と同じ協和発酵キリンが製造販売するため有効成分と製造法が同じ医薬品であり、通称「バイオセイム」と呼ばれています。
このバイオセイム製剤ですが、通常のバイオシミラーではなくジェネリックとして承認されているようです。
現在の薬価制度では原則ジェネリックはブランド品の50%、バイオシミラーはブランド品の70%の薬価になることが決められています。
何かおかしくないでしょうか?
この制度に当てはめるとブランド品と有効成分及び製造法が同じ「バイオセイム」の薬価が、有効成分と製造法が類似しているだけのバイオシミラーよりも安くなってしまいます。
このような背景もあり、承認後の昨年12月(通常6月と12月)の後発品薬価収載でも「ダルベポエチンアルファ注シリンジ」は収載されていなかったようです。
今回、中医協の協議を経て、「バイオセイム」の薬価もバイオシミラーと同様に70%とすることが暫定的に決まりました。
これで、次の6月の収載時に「ダルベポエチンアルファ注シリンジ」も収載されることが予想されています。
そもそもなぜ「バイオセイム」の薬価がバイオシミラーよりも低くなるというような不思議な事態になったのでしょうか?
それは日本の医療費の懐事情と医薬品の承認申請制度の要件に秘密があります。
以前も様々なエントリーで触れましたが近年医療費は増加の一途をたどり、高額な高分子製剤がその要因となっています。
この状況を踏まえると国としてはなるべくジェネリック、バイオシミラーの薬価は抑えたいところです。
一方、低分子のジェネリック医薬品と高分子のバイオシミラー医薬品は承認を取得するのに必要な試験データ、つまり承認申請の労力が段違いです。
ジェネリック医薬品は低分子なので、化学的に合成ができ有効成分はブランド品と同じものを使っています。
そのため添加剤等を含めた製造法は異なるのですが、生物学的同等性(医薬品が体内に吸収される速度と量)が同じであることが証明できれば承認されます。
この証明に必要な試験は医薬品の溶け方を比較する溶出試験と、少数の健康成人で血中濃度の推移を比較する生物学的同等性試験です。
一方、高分子のバイオシミラーはそれほど簡単ではありません。
高分子のため、有効成分を全く同じに合成することができません(だからシミラーなのです)。また、有効成分が同じでないという前提があるので、有効性・安全性を評価するための患者での臨床試験が必要になります。
薬価制度的には、ヒトで有効性・安全性を評価する必要があるかどうかということも加味して50%と70%の差を設けていると考えられます。
背景説明が長くなりましたが、今回の「ダルベポエチンアルファ注シリンジ」は有効成分が同一なオーソライズドバイオシミラーのため、有効性・安全性評価の臨床試験をする必要がなく承認申請の労力的にはジェネリックと同様になります。
この部分が薬価制度的にブランド品の50%薬価が妥当という議論のきっかけになったということです。
理想的には良いものを安く供給できるというのが企業や国の競争力向上にもつながりそうですが、一方で良いものを作るためにはそれ相応のコストがかかります。良いものを作っても経済的に報われないのであれば資本主義では誰もその努力をしないでしょう。
このことを踏まえると、少なくとも「バイオセイム」の薬価はブランド品の70%とした今回の決定は妥当と言えそうです。
今回「暫定的」ということなので、継続的に薬価関係の議論はチェックが必要です。